―設備設計はどんな設計をされているのでしょうか。
設備設計は、建物に命を吹き込む仕事だと考えています。
具体的には、空調・換気・給排水・電気など、建物を快適に使うために必要不可欠なシステムを設計しています。これらは普段目に見えない部分ですが、実は建築費の3~4割を占める重要な要素です。
例えば空調設計では、単に冷暖房を効かせるだけでなく、省エネ性と快適性の両立を追求します。オフィスなら生産性が上がる環境を、病院なら清潔で安全な空気環境を、工場なら製品品質を保つ温湿度管理を実現します。
最近は脱炭素やBCP(事業継続計画)への対応も求められます。太陽光発電や蓄電池の導入、災害時のライフライン確保など、設備設計の役割は年々拡大しています。
私たちはBIMを活用し、3Dで配管や機器の配置を最適化することで、メンテナンスしやすく、長く使える設備を提案しています。建物の用途や規模に関わらず、そこを使う人々の快適性と、地球環境への配慮を両立させる。それが現代の設備設計の使命だと考えています。
―もう少し具体的なイメージを教えて下さい。
電気設備設計と機械設備設計、この二つが建物内部の主要部分を作る仕事です。
まず電気設備設計は、建物の神経系統を設計します。受変電設備から始まり、照明、コンセント、通信、防災設備まで、電気に関わる全てを担当します。例えばオフィスビルなら、各フロアに必要な電力量を計算し、効率的な配線ルートを設計。LED照明で省エネを図りながら、働きやすい明るさを確保します。停電時の非常用発電機の容量計算も重要な仕事です。
一方、機械設備設計は建物の循環系統を担います。空調設備では、熱負荷計算により最適な空調機を選定し、ダクトや配管ルートを3次元で設計。給排水設備では、必要な水量・水圧を確保しつつ、省水型機器で環境にも配慮します。
両者に共通するのは「見えないけれど、なくてはならない」ということ。BIMを使えば、天井裏で電気配線と空調ダクトが干渉しないか、メンテナンススペースは確保できているか、3Dで事前に確認できます。
私たちの仕事は、建物を使う人が意識することなく、快適に過ごせる環境を作ること。それが設備設計の醍醐味です。
―かなり難易度が高い仕事のようですが。
確かに設備設計は専門性の高い仕事です。建築、電気、機械、それぞれの専門知識に加え、省エネ法や建築基準法など多くの法規制にも精通している必要があります。
しかし、だからこそやりがいがあるんです。難しい課題を解決した時の達成感は格別ですし、自分の設計した建物が何十年も使われ続けることへの誇りもあります。
大切なのは、一人で全てを背負い込まないことです。弊社では、ベテランと若手がチームを組み、実務を通じて技術を伝えています。分からないことは素直に聞ける環境を整え、失敗を恐れずチャレンジできる風土を大切にしています。
―建築設備士とは、どのような資格ですか。
建築設備士は、設備設計の中でもとても重要な資格です。具体的には、建築士に対して空調・給排水・電気設備など、建物の設備システム全般について専門的な助言を行います。
重要性という点では、2025年4月の法改正が大きな転機となります。一定規模以上の建築物では、建築設備士への意見聴取が努力義務化されます。これは国が設備設計の専門性と重要性を認めた証と言えます。
さらにこの資格を持っていると将来性は非常に明るいと考えています。カーボンニュートラルの実現に向けて、ZEBへの対応は必須です。太陽光発電、地中熱利用、高効率機器の選定など、環境技術に精通した建築設備士の需要は確実に高まります。
また、IoTやAIを活用したスマートビルディングの時代には、設備の知識に加えて最新技術への対応力も求められます。BIMを使った3D設計により、より精密で効率的な設備計画が可能になっています。
現在、建築設備士の有資格者が減少している一方で、社会的ニーズは増大しています。まさに売り手市場の資格です。
建物の快適性、安全性、省エネ性を左右する設備設計。その専門家として社会に貢献できる、やりがいのある仕事と言えます。
―どうして携わる人が少ないのでしょうか。
建築設備士が少ない理由は、いくつかの要因が重なっています。
まず、受験資格のハードルが高いことです。大学の建築・機械・電気系学科卒業後2年、専門学校卒なら4年以上の実務経験が必要で、さらに試験の合格率は約20%。一級建築士と同等以上の難易度にも関わらず、知名度が低いのが現実です。
次に、設備設計という仕事自体の認知度の問題があります。建築設計は花形として注目されますが、設備は「縁の下の力持ち」的な存在で、学生の段階では仕事の魅力が伝わりにくい。私も経営者として、この点は大きな課題だと感じています。
しかし、だからこそチャンスだと考えています。2025年4月の法改正により建築設備士の重要性は確実に高まります。カーボンニュートラルやDXの推進で、設備設計の役割はさらに拡大していく。今この仕事を選ぶことは、将来性の高いキャリアを築くことに繋がると確信しています。