―前回は設備設計についてお聞きしましたが、御社では意匠設計の部署もありますね。
はい、私たちは意匠設計と設備設計の両部門を持つ組織事務所を目指しています。
一般的には意匠と設備は別々の事務所が担当しますが、私は同じフロアで作業することの価値を強く感じています。実際、両チームが隣り合って仕事をすることで、素晴らしい相乗効果が生まれています。
例えば、設計初期から設備担当者が参画することで、意匠設計者がデザインした空間に、設備設計者がその場で最適な設備計画を提案する。この即座の連携が、質の高い建築を生み出します。
BIMでも大きな効果があります。意匠のArchicadと設備のRebroを同時に確認しながら調整がリアルタイムでできる。これは同じ場所にいるからこそ可能なんです。
お客様にとっても、意匠と設備の調整を一つの組織内で完結できることは大きなメリットです。デザイン性と機能性を高いレベルで両立させる、それが私たちの組織事務所としての強みです。
将来的には構造設計も含めた総合設計事務所として、建築のすべてを理解し最適解を導き出せる組織を目指しています。
―若手人材を採用するにあたって、どのような基準で決めているのでしょうか。
技術的なスキルよりも、まず人間性を重視しています。特に大切にしているのは「謙虚さと素直さ」です。
設計の仕事は、お客様、建築士、メーカー、施工会社など多くの関係者との協働が不可欠です。相手の意見に耳を傾け、自分の考えも適切に伝えるコミュニケーション能力は必須です。経験が浅くても、素直に学ぶ姿勢があれば、必ず成長できると信じています。
次に重視するのは「向上心」です。設計という仕事は日々進化する分野です。新しい技術や法規制の変更に対して、「もっと学びたい」という意欲を持っているか。一級建築士、建築設備士のような難関資格にも挑戦する気概があるか。そういった成長意欲のある人材を求めています。
そして「スケジュール管理能力」も大切です。設計には必ず納期があります。複数のプロジェクトを並行して進める中で、優先順位をつけて計画的に仕事を進められるか。これは入社後に身につけることもできますが、学生時代の活動などから、その素養を見極めるようにしています。
技術は入社後にいくらでも教えられます。しかし、謙虚に学び、仲間と協力し、自ら成長しようとする姿勢は、その人の本質的な部分です。そういった「成長が見込める人材」と一緒に、より良い設計事務所を作っていきたいと考えています。
―経験の浅い人を採用された場合は、どのような教育をされているのでしょうか。
新入社員や経験の浅い中途採用者の教育には特に力を入れています。まず入社時に、年齢の近い先輩社員を教育担当者として配置します。技術的な指導はもちろんですが、同世代だからこそ相談しやすい環境を作ることが大切だと考えています。
教育の軸となるのが「キャリアアップシート」です。これは個人の成長目標と会社の期待を可視化したもので、3ヶ月、6ヶ月、1年後にどんなスキルを身につけるか明確にしています。例えば「3ヶ月でCADの基本操作をマスター」「1年後には簡単な設備図面を独力で作成」といった具体的な目標を設定し、定期的に進捗を確認します。
体系的な教育カリキュラムも整備しています。設計の基礎知識から始まり、法規制、積算、BIM操作まで段階的に学べるプログラムです。座学だけでなく、実際のプロジェクトに参加しながらOJTで実践力を養います。
さらに年数回の社内勉強会を開催しています。ベテラン社員が講師となり、最新の技術動向や過去のプロジェクト事例を共有します。
人材育成は会社の未来への投資です。じっくりと、しかし着実に一人前の技術者へと育てていく。それが私たちの責任だと考えています。
―社員の定着率を上げるために、他社にない工夫はありますか。
社員が長く働きたいと思える「魅力ある会社」づくりに注力しています。その核となるのが、個人の成長を実感できる環境整備です。
まず、知識やスキルの向上を会社全体でバックアップする体制を整えています。資格取得費用の一部補助はもちろん、勉強時間の確保へも配慮します。例えば、一級建築士、建築設備士などの試験前は残業を極力減らし、集中して勉強できる環境を提供しています。合格時には資格手当、報奨金も支給し、努力が報われる仕組みにしています。
また、プロジェクトの成功体験も大切にしています。規模は小さくても、若手に責任ある仕事を任せ、自分の仕事が社会に貢献している実感を共有します。これは何よりもモチベーションアップに繋がります。
給与や福利厚生も大切ですが、それ以上に「ここで働けば確実に成長できる」という確信を持ってもらうこと。それが定着率向上の最大の秘訣だと考えています。